GP & PEOPLE

GPと人

竹中 慎Shin Takenaka

Profile

氏名 竹中 慎
勤務先 国立がん研究センター東病院
婦人科/AIデジタル機器開発推進室
専門分野 婦人科腫瘍

手術教育イノベーション
先端技術による学習効率化の取り組み

最新技術を活用し、外科教育に革新をもたらす

自分の修練を振り返ると、手術技能の習得に苦労したのは、自身の努力不足もありますが、それ以上に適切な教育環境や教材が不足していたことが原因だと考えました。次世代の医師が同じ経験をすることを避けたいと思い、非効率な学習環境を変えることを模索しました。その結果、一般社会で採用されている最新技術を活用し、効率的に学習できるデバイスを開発し、医局を超えた情報共有のコミュニティを形成し、外科教育に革新をもたらすことを目指しました。

婦人科腫瘍修練医のための子宮モデルの開発

最初に針金とスポンジ使って3D骨盤血管解剖シミュレーターを開発しました。膀胱子宮靭帯や骨盤神経叢など骨盤内の血管、神経を全て再現し、血管同士の接合を可能にしたもので、広汎子宮全摘術のシミュレーションを何度も行えます。次に同モデルを3Dプリンターにて量産できるように改良しました。このモデルを用いて骨盤解剖ハンズセミナーを行い、全国の医師に対して広汎子宮全摘術および骨盤リンパ節郭清のシミュレーショントレーニングを開催しました。今後はVRの技術に応用してトレーニングを進化させていきたいです。 

AIを用いた新たな教育デバイスの開発

AIを用いた教育デバイスとして、2つのモデルを開発しました。1つは尿管・膀胱ナビゲーションモデル、もう1つは自動手術技能評価モデルです。尿管・膀胱ナビゲーションモデルは、腹腔鏡モニターに尿管や膀胱の位置が光って表示されるシステムで、レジデントへの教育ツールとして活用できます。自動手術技能評価モデルは、AIを用いて自動的かつ客観的に手術技能評価を行うシステムです。AIにより15個の手術技能評価パラメーターを計測することができます。技術認定審査の申請ビデオのスコアと比較して自分の課題を見つけ、ラーニングカーブを短縮させることが期待されます。

ドライボックスでの縫合結紮トレーニングでの教育活動

2014年の時点ではドライボックスでのトレーニング方法が言語化されている教材はほとんどありませんでした。一方、自分がトレーニングを積んだ結果から、方法さえ知ることができれば、すぐに効率よく上達することも実感しました。そこで、自分が身に着けたトレーニングのtipsをまとめ、学会発表や教科書、YouTubeを用いて発信しました。YouTubeでの再生回数は10万回を超え、高評価をいただいています。

外科教育プラットフォームの構築

2020年11月から全ての外科系医師のために地域格差の無い教育環境を作ることをミッションに、長野赤十字病院の堀澤信先生と共にOSP(Online Surgeons Platform)を構築し、運営しています。オンラインの手術ディスカッション、エキスパートのインタビュー、手術のデジタル教科書、医療機器の情報プラットフォームなど、外科医教育の総合プラットフォームです。毎月100名以上のペースで会員は増え、2024年6月現在、医師会員数は3,600名を超えました。
今後はより多くの人がOSPで交流を持ち、そこでモチベーションをもらい、日々の臨床を頑張ることができる世界を作りたいです。

効率的な教育への取り組み

私の教育に関する行動を振り返ると、私の背景にいつもあるのは「効率的な教育」でした。効率という言葉はけっして聞こえが良くはないですが、新たなデバイスとITコミュニティが医師のラーニングカーブを短縮させることで、確保された時間は医師のQOLを高めることができ、周術期合併症を減少させると信じています。医学の進歩に伴い、現在の修練医の習得すべき技術は多岐にわたる一方、働き方改革により医師の働く時間は限られます。新規技術によるイノベーションを教育に積極的に取り入れることが、この状況を打破する一つの解だと考えました。

産婦人科医学教育者へ向けてメッセージ

日常の手術現場においては、業務の非効率性に対する不満がしばしば抱かれます。これらの不満を単なる愚痴として放置するのではなく、解決に向けたアイデアへと転換することが肝要であると認識しています。不満が具体的な提案へと昇華される際には、その変革の機会が生まれます。なぜなら、不満はその立場においてのみ鮮明に認識されるものであり、その視点から生じる洞察は貴重なものだからです。是非とも、これらの変革の契機として、手術教育の効率化に努めてみませんか。