GP & PEOPLE

GPと人

牧 尉太Jota Maki

Profile

氏名 牧 尉太
所属 岡山大学病院
専門分野 周産期・女性医学・ICTと地域創生

「柔軟で自由な教育」
~教えることは最大の学び~

振り返ると…

私が医学を教育する側としてスタートしたのは2010年です。大学6年時にシミュレーション教育の普及に尽力されていた産婦人科医の新井隆成先生と出会い、初期研修中の2012年に「教えることは最大の学び」を平松祐司先生(岡大先代教授)に教えていただいたことで、以降、教育を学ぶ道に従事する機会をいただいたと思います。

岡山大学医学教育センター
多職種連携
医療教育部門兼任

いうまでもなく周産期医療はチーム医療です。妊婦の産前・産後の医療は、他分野や各専門のステークホルダーの協力が不可欠です。また人数や設備などの規模が異なる施設間の連携、初期対応から応用までのチームマネージメントが必要になります。緊急時こそ重要なのは、メンバーは違えども、どんな時でも最善の判断と行動をとることを助ける導線やシステムの構築と、力量を維持するシミュレーションを何度も行い、心理的安全性を確保することだと思います。周産期医療はその多職種連携そのものでその経験を活かし、大学ではその部門を兼任させていただいております。

院内外での
シミュレーションコースの開催

日本全国で、初期研修医時代から、シミュレーションコースのファシリテーターとして多くの活動に参加させていただきました。全てのコースで、わたしが毎回学ばせていただいております。2015年に岡山大学に帰局し、周産母子センター、NICU、手術部、麻酔科、救急科、その他スタッフら70人前後で行う緊急対応シミュレーションを同年より続けています。今では、部署同士の壁が減り、要望や知恵を出し合う風土ができました。ここ数年は、若いスタッフに全ての運用を任せ、彼らのやりたいシミュレーションとして進化しています。

シミュレーション機器開発を産科に活かす

多くの先達から教わってきたシミュレーション教育を、教える側も学ぶ側も、もっと納得の 臨場感のあるものにしたい気持ちがありました。自由な発想で、挑戦させていただけたのは、現教授の増山寿先生がサポートいただき、「まるで本物」という感覚のシミュレーション機器を企業と共同で開発し、2018年以降、全身管理・正常・異常分娩・帝王切開縫合・4度裂傷に関するリアルオンザジョブトレーニングが可能になりました。海外でも指導を始めています。また、遠隔にいても講習に参加でき、産婦人科のチームプレイを学び、活かそうと考え、共通言語、共通認識をベースにした多職種連携の実践システム構築に取り組み、実装しています。

デジタルの普及と
地域創生にも教育が中心

デジタルを一つの手段に地域創生や医療機関がより便利になるための創生事業に大学人として関わっていますが、かならず当初は様々な反対勢力が出現し、挫折しそうになります。ここで重要なのが対話を手段とした「教育」です。何度も足を運び、課題に対する有用な意見を聞き取り、とり入れ、理解を得て初めて賛同を得ます。会合中に何度も指導をする側・される側が変わり、「指導の向きが逆転する」のが教育の醍醐味です。事業や現場で多くのサポートを得るために教育を学ぶことは人間力の中心にあると思っています。

最後に

現在、日本産科婦人科学会 教育委員会 医学教育活性化委員会委員として活動をさせて頂いており、メンバーはそうそうたる教育巧者で、私は恐縮しています。一方で、すべてのヒトが、今まで教えたり・教わったりを続けている点では、生活の一部にもなっており、実はこれを読んだあなたも教育のスペシャリストだと思ってます。なにが「教育が上手」と認知される所以なのか、今後も出会う方と一緒に考え、AI時代に求められる教育の新しいあり方について、わたしなりに考えていきたいと思います。以前は「こうしなさい」全盛だったものが、いまの時代に効くのか、本でもネットでもメディアでもAIでも教育についての情報があふれているこの時代、教育論の代わり目なのだと思います。上述しましたが指導する側・される側が時と場合で刻刻と変わる教育は本来、もっと自由かと思います。自由だからこその不自由さがあるように思い、「こうあらねばならない」「こうしなければならない」という重しにとらわれているのを解放し、地域を見ながら、謙虚に自分なりの教育を追い続けていきたいと考えています。