GP & PEOPLE
GP & PEOPLE

| 氏名 | 石川 博士 |
|---|---|
| 勤務先 | 千葉大学 |
| 専門分野 | 生殖内分泌学、女性医学、婦人科低侵襲手術 |

「外科教育」「手術指導」というと何を連想しますか? 私は系統的な外科教育を受けた記憶はありません。私が医師になったころは、手術書はあったものの診療ガイドラインや模範となる手術動画は存在せず、偉い先生から「手術は目で見て盗め!」とよく言われました。今から考えると第2助手あるいは第3助手をやりながら手術手技を盗め、とは無茶苦茶な話です。それでも少しでも手術がうまくなりたいと思って、眠気と闘いながら必死に骨盤の奥の手術を見ていました(笑)。その後、腹腔鏡手術をはじめとする鏡視下手術が全盛期を迎え、手術動画が録画されるようになり、WEB上で多くの手術動画が簡単に閲覧できるようになりました。さらに、自分が参加していない手術でもオンラインで気軽にディスカッションができる時代になり、ロボット手術が標準術式として認知されつつあります。最近ではシミュレーターも進化するとともに、AIによる手術ナビゲーションシステムも開発されており、外科教育・手術指導が格段にやりやすくなったと実感しています。

「教育」は大学病院で行うもの、学習者のために行うもの、という私の固定観念を払拭してくれたのが、2019年に参加した、Surgeons as Educators courseでした。こちらのコースは「一般臨床を行う外科医」が若手を教育するうえで必要な成人教育理論、心構え、実際の手法を学ぶ大変良い機会となりました。人に教えたくても、教え方がわからない、あるいは自分の教え方が正しいのか、疑問に思っている先生にはお勧めのコースです。また、教育することで教育者にもメリットがあることも理解することができました。
私がこのSurgeons as Educators courseで学んだことで最も役立っていることは、時間の使い方と「自分の中でのPriorityは何か」を常に考える姿勢、です。私たち産婦人科医は、帝王切開をはじめとする多くの緊急手術、ハイリスクの分娩に立ち会い、その時集中力が増します。また、人は常に何らかの締め切りに追われており、締め切りギリギリにならないとそのタスクに取り掛かることができないものです。これらの緊急性が高く、重要性も高いものをクリアすると達成感と充実感を味わうことができ、私たちは知らないうちにこれらをたくさん抱え込む、「緊急依存症」に陥りがちです。しかし、本当に自分で考えて時間を割くべきなのは、緊急性は低いが重要性が高いものなのです。また、自分の人生の方位磁針となる、ビジョン、価値、主義、使命を具体的に考え、それを上司に伝えることも大事です。時間を節約するマネージメントスキルを身に付けることで、外科医に多い「緊急依存症」から脱却し、自分の中での仕事の優先順位をはっきりとさせることができます。

手術室での教育は、外科医が行う教育の根幹を占めます。実際の手術手技(テクニカルスキル)の指導に加えて、手術室スタッフとの連携、なぜこの手術を行うのか、手術時間を短縮し出血を減らすためにはどういったアプローチが必要なのか、などノンテクニカルスキルの指導も欠かせません。手術では一歩間違うと重大なインシデントが起こる可能性があり、常に緊張を保ちつつ学習者に過度の緊張を与えないような教育指導体制の構築に努めています。
当然ながら、医学生への教育と研修医への教育は異なり、学習者の能力に応じた教育の個別化が求められます。また、学習者のニーズがどこにあるかを事前に把握しておく必要があります。個々の学習者のニーズを踏まえて、手術前のブリーフィング、手術中の指導、手術後のデブリーフィングを行うことで、短時間で効率的な教育が可能となります。私もトライアンドエラーを繰り返しながら、手術室での教育を実践しています。学習者のニーズに合った教育は学習者のモチベーションを大きくアップさせ、学習者のスキルアップにも貢献します。また、教育者としても教育手法のスキルアップにつながることを実感しています。

私の所属する千葉大学産科・婦人科では、腹腔鏡技術認定医、ロボット手術技術認定医の養成を目的として、オンライン内視鏡手術勉強会を立ち上げました。メンバーは技術認定医取得を目指す医師と技術認定医の資格を持つ指導医です。メンバーが自身の内視鏡手術動画をアップし、会員が自由に閲覧、コメントを入れることができるようにしています。定期的にメンバーがオンラインで集まり、技術認定医審査に向けた準備状況を共有することで、チームとして技術認定医養成に取り組む姿勢が明確となり、申請者のモチベーションアップにつながっていることを実感しています。
また私自身は、この勉強会が自分の手術指導が正しいのかどうかを評価する良い機会になっています。最近自分で手術を執刀する機会はほとんどなくなり、指導的助手として手術に入ることが多くなりました。自分が指導的立場で入った手術動画はどうしても、贔屓目に見てしまうため、他の病院の指導的立場の医師からのコメントは自分自身の指導方法のフィードバックにも最適です。この勉強会を通じて私自身もスキルアップしたと実感しています。

私たち外科医の取り巻く環境は大きく変化しており、今後もロボット手術のさらなる発展とAIを使った技術革新が続くでしょう。私たちを取り巻く急速な環境の変化に、私たち自身が乗り遅れないようにしたいものです。また、自分の中でのPriorityは何かを常に考え、緊急依存症から脱却したいとも思います。若手に対する手術教育も様々なツールが開発されています。若手のニーズを把握し、若手に最適な手術教育を考え実行することは、大学病院はもちろんのこと、一般の病院でも指導医が行うべきです。手術室での教育方法を考え実践することは、指導医のスキルアップにもつながります。これからも時代の変化、学習者のニーズに合わせた手術室での最適な教育方法を追求し、実践していきたいと思います。